骨量の少ない患者さんに対しカウンセリングを行い、サイナスリフトを用いたインプラント治療を選択した症例
今年の2月、3月は大掛かりなインプラント手術を行う症例が多かったように思います。
下顎の臼歯部も多かったのですが、上顎臼歯部にサイナスリフトを行いインプラントを多数埋入した症例もいくつかありました。4月は既に5件サイナスリフトが予定されていて、タフな月になりそうな気がします。
最近行った手術の中から、印象深かった症例を紹介します。
こちらは、50代の男性です。左上の6番、7番欠損で来院されました。
反対側にも10年以上前、インプラント治療を行った患者さんです。今回も欠損部の治療方法としてインプラントを選択されました。
術前のCT検査の結果、骨の垂直的な量が少ないことがわかり、サイナスリフトが必要でした。
最近はいろいろなメーカーから、ショートインプラントが発売されています。その代表的なものは、D社のEVインプラント、S社のBLXインプラントで、私はその両方を使っています。いずれも最小の長さは6ミリですから、少なくとも骨の垂直的距離が7~8ミリ必要です。それ以下の患者さんはショートインプラントを使えないため、ラテラルウィンドウテクニックを使ったサイナスリフトを必要とします。
治療前に行うカウンセリングでは、骨造成を行わないでショートインプラントを埋入する場合と、大掛かりな骨造成、すなわちサイナスリフトを行って長いインプラントを埋入する場合、それぞれの利点欠点を充分説明します。
ショートインプラントを使う場合は、比較的短い時間の手術です。一方、サイナスリフトを行う手術は、歯科麻酔専門医の協力のもと静脈内鎮静法を用いて2時間前後の手術になります。外科的侵襲度は高くなり、腫れや多少の痛み、内出血が伴いますが、それも1週間くらいで必ず治まります。私は術後に予想される内出血や腫れの様子を必ず絵にかいて、事前にお渡しするようにしています。患者さんにわかっていただくためだけでなく、ご家族や職場の方などに心配をかけないためでもあります。
そして、サイナスリフトは非常にデリケートな手術です。ティッシュペーパーほど薄い洞粘膜を損傷しないように剥がして、きれいに挙上しなければなりません。
口腔外科の専門医がこの手術を行っても、20%くらい失敗することがあると、インプラントの専門誌に書いてありました。私は1995年以来、数百症例この手術を行ってきましたが、やり直しをしたのは1回です。
大切なことは、うまくいかない場合はどうするか、もう一度手術をするのか、ブリッジで欠損補綴をするのか、リスク回避の方法、治療方法の変更についても考えて、ちゃんと患者さんにお伝えすることです。私自身、どんな治療や手術でも、万が一うまくいかない場合、次はこうするとイメージし、段取りをしてから行っています。
カウンセリングでは、以上のような話を患者さんと1対1で30分から1時間かけてお話ししています。
先日、歯科大の教授をしておられる歯科麻酔専門医が当院に来られ、「静脈の確保」について30分ほど講義をしてくれました。
静脈は体の中にあるから目に見えない。太くて見える人もいますが、見えない場合は頭の中で、血管がどのように走行しているかイメージしなければいけないよとおっしゃっていました。まさしく、その通りだと思います。インプラント治療も同じで、私はいつも、血管や骨をイメージしながら手術を行っています。
歯を削り出す場合も、どんな歯にするか、先にイメージしてから行います。どんなに良いスキャナーや削りだす機械を使っても、歯科医師のゴールをイメージする力がなければ良い歯は作れません。材料の選択の前に、最も重要なのは歯科医のイメージ力と技術です。
結果的にこの患者さんは、ショートインプラントを使いませんでした。部分入れ歯を入れたくないということで、サイナスリフトを使って長いインプラントを埋入することになりました。
インプラントにしない選択肢は、固定式の延長ブリッジ、それでもダメなときは部分入れ歯にします、とそこまでお話しして、充分な情報提供をしたうえで、サイナスリフトを行うことになりました。
この患者さんもそうですが、一度インプラント治療を受けた方は、次の治療でもほぼ100%インプラントを選択されます。インプラント治療が長期的に成功していること、そしてそれが健康長寿につながっていることを実感されているからだと思います。
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