治療に強い不安を抱える患者さんに対し、治療方法を選択し治療計画を立てた症例
60代の女性です。20数年前、当院でインプラント治療を行いました。
現在は北陸地方にお住まいで、地元の歯科医院で長く治療を受けていたのですが、あまり良い結果が得られず、大学病院を紹介されてそこで抜歯したそうです。しかし他にも欠損部があるため、当院でインプラント治療を受けたいと来院されました。
下顎の臼歯部に対するインプラント治療はそれほど難しくありません。しかし、この患者さんが長年治療を受けてきた左上6番欠損については、上顎洞底挙上手術が必要でした。CT画像ではそれほど異常所見は見られないのですが、歯科治療に対する不信感が気になりました。
というのは、この患者さんは左上臼歯部に対する違和感をずっと抱え、近所の歯科医院で2年も3年も根管治療を続けて、挙句の果てに大学病院で抜歯したのです。しかも抜歯した際、上顎洞に根尖部による穿孔(穴が開くこと)がみられたということです。こうしたことが重なって、左上6番部の治療に対する恐怖心があり、トラウマになっているようでした。
従ってこの部位については、インプラントではなくブリッジによる欠損補綴を行ったほうが良いのではないかと私は考えます。
その患者さんの心理状態やヒストリーまで考慮して治療方法を選択し、患者さんの身になって診療計画を立てなければならないと思います。
とても重要なことは、この患者さんがいったい何を求めているかということです。カウンセリングでそれをダイレクトに聞くのではなく、30分、1時間かけてコミュニケーションする中で察知し、見抜くのです。どの治療法が、その患者さんに心理的にも良い結果をもたらすのかを考えて、治療計画を立てなければなりません。
それが歯を取り扱う医者、歯科医の役割だと思います。
術後 CT画像
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